2016年3月21日月曜日

季題まがいの言葉

季題と信じ込んでいるのに季題では無いという言葉がある。例えば早春賦という言葉がそうだ。
春は名のみの風の寒さよ 谷の鶯 歌は思えど 時にあらずと声も立てず 時にあらずと声も立てず、と唄いだす有名な歌がある。その歌の題名を「早春賦」という。ところで雑詠の選をしていて、こんな句があった。

       野を行けば唇洩れぬ早春賦

句の意味は分かりやすい。春の野を歩めば早春賦という歌が口をついて出た、というものだ。作者は早春という季題が含まれているので、早春賦という言葉を季題であると解釈したのだろう。しかし、広辞苑にも明鏡国語辞典にも早春賦という項目は無い。勿論、ホトトギス新歳時記にも、角川の合本歳時記にもこの様な季題は載っていない。残念ながら、早春賦は季題では無く、したがって掲句は無季の句となる。この様な言葉は季題まがいの言葉と言えるだろう。

恵方巻という巻寿司がある。節分の当日に、その歳の恵方に向かって棒状のままの巻寿司を食べれば幸運が舞い込むと言われる。今年の節分では、コンビニが予測を誤って作り過ぎ、大量に廃棄したことが報じられて大きな問題になった。この恵方巻を季の言葉として句を詠む方があるが、これも無季の句となる。

早春賦でも恵方巻でも、歳時記で確認すれば季題では無い事が確認できる。疑問を感じたら、手間を厭わず歳時記と相談することだ。