2016年6月8日水曜日

紀伊俳壇について

九年母誌の雑詠の選を初め、毎日100句・200句と選をしています。中には意味の分からない句や、解釈に苦しむ句もあり、なかなかに時間が掛かります。肩の筋肉が、若い頃と違って弱って来ていますので、重い頭を前傾させて一日中投句用紙に向かっていますと肩が凝ります。そんな時に心が癒される句を拝見しますとホッとします。

      チューリップ唱歌の如く咲いてゐる       静枝
      どの家も一鉢二鉢チューリップ         同
      おちょぼ口ほほふくらますチューリップ      鈴子
      赤白に寄する風波チューリップ         同

これらは、田辺市に本拠を置く地方新聞『紀伊民報』の「紀伊俳壇」に掲載された句ですが、選をしていて癒される思いがしました。いわゆる装飾過剰の、キラキラした句に比べて、何と素朴な句でしょう。思ったままを、難しい表現に頼らず、素直に詠んでおられます。

この俳壇は、毎月100名を超える地元の俳句愛好家が投句され、入選句が毎日順番に掲載されます。私は、哲也前主宰が倒れられた時に即引継ぎ、3月は「春風」、4月は「チューリップ」、5月は「鯉幟」の兼題をお出して、投句を募りました。投句者は兼題で詠んだ3句を官製はがきに書いて、新聞社の俳壇係へ送ります。こうして集まった葉書が翌月初に、一ヶ月分纏めて私の手元に届きますので、数日以内に選をして返送します。

俳句の基礎を習っておられない方もあり、我流で詠んだ句もかなりありますが、それだけに素朴な、素直な句が多く、好感が持てます。特定の指導者の偏った影響も感じられません。私の仕事は、虚子の示された伝統俳句の理念に基づいて選をすることです。

『紀伊民報』では九年母会の紹介広告をしばしば紙上に掲載して下さり、購読者の中には30名を超える九年母会員が居られます。九年母会の前身である「盟友会」が、大正4年に和歌山市郊外吉田村秋月で創設された事もあり、和歌山とは深い所縁が有ります。田辺市滝尻には播水・哲也の親子句碑が有ります。この所縁は、これからも会が続く限り、大切に続けて行きたいと思います。