2021年7月4日日曜日

心のひだで詠む

 大相撲の元立呼び出しの米吉(本名 安藤米吉さん)が、83歳で亡くなられました。立呼び出しと言うのは、呼び出しの最高位の称号で、横綱戦の呼び出しを務める、重い仕事です。

太鼓の名人と言われた呼び出し太郎に9歳で弟子入りして業績を重ね、61歳で呼び出しの最高位に就いた人です。土俵に上がると、片手で白扇をぱっと広げ、良く澄んだ美声で横綱戦の力士の名前を、二声ずつ呼び出す。オールバックに髪を整え、足袋のかかとを揃えた端正で粋な立ち姿は、土俵に花を添えました。また、相撲甚句を歌わせたら、天下一品と言われた名人でした。私も相撲甚句を少し齧ったことが有り、米吉の甚句をテープで繰り返し聞いて勉強したことがあります。

その米吉に、心を打つ言葉があります。「甚句ってのは60年、70年生きて来た心のひだで歌うんだ。太郎の太鼓と一緒だよ」。叩き上げた職人の言葉です。私達も俳句を作る職人です。良い俳句を詠んで読者に感動してもらう。呼び出しと同じです。米吉は私達に、「俳句てえのは60年、70年生きて来た心のひだで詠むんだよ」と、教えてくれているのかも知れません。味わい深い言葉です。