2016年10月10日月曜日

時事句について

8月募集分の雑詠の選をしていて、リオデジャネイロで開催されたオリンピック、パラリンピックを詠んだ句が沢山あるのに驚きました。時事を題材にした、いわゆる時事句と呼ばれるものです。

     手に汗のドラマ続くやリオ五輪
     星月夜日本の裏でリオ五輪

この他、リオ遥か、リオの夏、リオの汗など、リオデジャネイロ大会での熱戦を題材にした句が、それこそ五万と有りました。4年後に、東京でオリンピック・パラリンピックが開催されます。この時にも

     手に汗のドラマ続くや江戸五輪

の様な句が詠まれるでしょう。そうなると、リオ五輪の句は、一過性の、単なる思い出の句になってしまいます。俳句の芸術作品としての普遍性はどうなるのでしょう。この様な句は、まさに芭蕉の言われる、流行の句になってしまうと思います。

私達が追及して止まない理想の句は、不易の句、つまり人間の営みをも含めて、自然界の真理を描いた句です。一過性のものでは無く、いつの時代にも通用する普遍的な作品です。

     古池や蛙飛び込む水の音      芭蕉

赤穂浪士の討ち入りのもっと前、つまり今から330年ほど前に詠まれたこの句が、今でも光を失うことなく、芭蕉の代表句として人口に膾炙しているのは、普遍の真理を詠んだ句であるからです。真理を詠んだ句は、いつの時代でも読者の心を打ちますが、流行の句は、詠まれた瞬間に老朽化が始まります。心したいものです。